2018年7月、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産に登録されることが決まり、地元の観光産業を中心に大きな期待が寄せられています。
日本には富士山や法隆寺、厳島神社等をはじめ、多数の世界遺産がありますが、今回の長崎は22件目の世界遺産ということになります。
今回は世界遺産として登録された後、どのようなインバウンド効果が期待出来るのか、またどのような課題があるのかを見ていきましょう。
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」とは
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は長崎市の大浦天主堂や島原の乱で知られる原城跡、熊本・天草の崎津集落など、禁教期の中2世紀以上に渡り信仰を守り続けたキリシタンの歴史に関連した12の資産から構成されています。 2県6市2町にまたがるこの遺産は他に例を見ない当時の貴重な生活を伝えるものです。 長崎県にはハウステンボス等の観光施設があり、人気を博しておりますが、世界遺産によってインバウンドの送客等が見込めるものとされています。 過去に世界遺産に登録された事例から、登録後の観光客の動向について見てみましょう。
先行事例『石見銀山』
島根県の石見銀山は2007年7月に世界遺産に登録されましたが、登録前は年30万人前後だった観光客が登録された2007年には70万人、翌2008年は80万人と2倍以上にまで急増しました。 しかしその後は減少し、40万人前後に落ち着いています。 石見銀山の事例で推察できるのは世界遺産に登録されることでブームが起き、観光客が急増するということです。しかし、ブームはいつか去ってしまうもので、終われば減少するということです。 しかしピークの頃からは減少したとはいうものの、世界遺産登録前からは10万人程度増加しているということから、世界遺産に登録されたことで一定の効果があったと言えるでしょう。
世界遺産登録の本来の意味
このように見ていくと世界遺産に登録されることで受けられる経済的な恩恵に目が行きますが、必ずしもそうではありません。 世界遺産は元々人類共通の遺産を後世に引き継ぐことが目的で、観光や地域活性化などの経済性は推薦・登録とは関係がありません。 また、世界遺産に指定されると国際条約上、保全義務が発生し、そのためのコストがそれまで以上に必要になることは充分にあり得ることです。 2014年に世界遺産として登録された富岡製糸場の場合、観光客自体は増加しましたが道路や駐車場などのインフラ、建物の老朽化対策、インバウンドを含む増加した観光客を受け入れるための対策が必要となります。
登録後もしっかりした戦略を
世界遺産に登録されることで得られるメリットとして観光客増がありますが、ブームが起きている間にきちんと観光客を受け入れるだけの施設の整備等を行い、リピーターを育てるような工夫をすることでブーム後の観光客の減少を最小限にとどめ、以降も安定した集客を目指すことが必要です。 しかし、保全の義務が同時に発生することもありますので、世界遺産の登録を手放しで喜ぶというわけにはいかないようです。