2017年のインバウンド人口は2,869万人、そのうち735.6万人を占めるのが中国で、今年も1位をキープしています。
このようにインバウンドによる経済効果を見た場合に中国人観光客は無視できないのですが、中国人富裕層の間で訪日旅行の評判が下がっている、といいます。
このような話の背景にはどのような事情が存在しているのか、中国と日本の違いに留意しつつ見てみることにしましょう。
中国と日本のサービスの違い
中国では所得に応じたサービス提供
筆者は妻が上海出身で上海で8年生活し、今も日本と上海を行き来しながら仕事をしていますが、中国ではかなりの場面でお金で解決する、という手段が用意されています。これはお金でインチキをする、ということではなく、観光地のレストランで席があくまで並びたくなければ最低消費額のいくらまでお金を使ってくれれば個室を用意する、というような仕組みをお店が用意しているのです。 そのため、いわゆる富裕層はお金を払い、サービスを提供する側は出費に応じたサービスを提供する、という構図が出来ています。
日本では基準値は高いが富裕層向けが弱い
しかし、日本の場合はこのような特別なサービスが用意されていない反面、コンビニやファストフード店等、中国では高い水準でのサービスが期待できない場面でも非常に高いおもてなしがある、というところが最大の違いではないでしょうか。
中国人富裕層のニーズ
①車移動が基本
普段運転手付きで移動している中国人富裕層にとって地下鉄等の公共交通機関での移動は本国でも体験したことのない未知の領域です。 中国はジュネーブ条約に加盟していないので運転免許証を持っていても日本で運転することはできません。 そうなるとタクシーで移動ですが、英語または中国語で行きたいところを正確に伝達するところでさらに苦労が発生します。 日本在住の中国人ドライバーが運転する『Uber』などのサービス、という手もありますが、これは白タクで違法となりますので、利用には問題があるのです。この場合、お金の問題ではなく利便性の問題なので、タクシー会社が言語対応をきちんと用意した上で1日貸し切り等のニーズに対応すれば確実にニーズがあると思われます。
②日本人が評価する飲食店
筆者は上海の友人や友人を経由して日本でおすすめのレストランを紹介して欲しい、と頼まれることがよくあります。彼らは口コミサイト等で人気店の情報を集めていますが、知りたいのは「この人気店は日本人にとっても人気店なのか」という点です。 ツーリスト向けの店ではなく、きちんと地元で生活する日本人に評価されているレストランで食事をしたい、というニーズが強いというわけですね。 確かに口コミサイトで上位に表示されているお店やアクティビティの中には日本人は全く知らない、というものが目につきます。これを日本の文化だと紹介していいのか、と思わされる場面もあることから、中国人たちが日本人に本当のところを確認したい、というニーズを持っていることも理解できます。
③対人での中国語対応
観光地の飲食店やテーマパーク、公共交通機関等ではメニューやカタログの多言語化を中心に対応を進めていますが、こと中国人富裕層を相手に商売する、ということであればそれだけでは不足だと感じます。 80年代以降生まれの若くして富を築いた中国人富裕層の多くは英語が堪能なことも多いのですが、50代、60代となると英語はダメということが多いので、やはりもてなす側としては中国語での接客対応が理想です。
④富裕層向けの価値基準に合ったおもてなし
日本と中国の双方を知る筆者としては日本のサービス水準はやはり高いと感じますが、もっとサービス水準を上げるべき高級店においては期待値より低く、そこまでしなくても良い、という大衆的・普及的な場面で高すぎるという、悪い意味で平均点が高くなっているように思います。 例えば、寿司に代表される日本の文化の一部ともいえる食を提供するお店が料金は高くても中国語で寿司ネタや調理法を説明しつつ、誰が見ても正しい日本の寿司を提供する、ということがきちんと中国人富裕層に伝われば、かなり高い金額だとしても喜んで来店する中国人は相当いるはずです。 このように価格設定に見合うサービスを提供できれば、彼らは納得して消費をするでしょう。 そのような体験は素晴らしい思い出としてSNS経由で拡散されますので、質の高い口コミで自然とプロモーション効果が発揮されていくはずです。
まとめ
今回は中国人富裕層に焦点をあてた内容でしたが、中国人観光客が日本に期待していることの一つはやはりサービス、おもてなしであることは間違いありません。 しかし、中国人をアテンドして一緒に観光地を回ると、“おもてなし”されていないな、と感じることが多々あるというのが筆者の実感です。 富裕層相手にビジネスをするに見合うおもてなしをしているのか、また一般の中国人観光客にとっても正しくおもてなしが出来ているのか、今後リピーターを獲得して継続的にインバウンドを呼び込めるかどうかのカギはそこにあるのではないでしょうか?