百貨店最大手・三越伊勢丹ホールディングス(HD)の業績が芳しくありません。
競合他社が脱・百貨店に舵を切り、客層の若返りを図る等回復傾向を見せる中、百貨店へのこだわりを強調した戦略を打ち出している同社の今後の動向を疑問視する声も少なくありません。
2014年には多くの中国人観光客が押し寄せ、爆買いによって大きく業績を伸ばした百貨店ですが、その後の消費動向の変化によって訪日中国人頼みの構図は長続きしませんでした。
では、国別インバウンド人口の1位である中国における日本の百貨店の動向はどのようになっているのでしょうか?
三越伊勢丹ホールディングスの事例を見ていきます。
三越伊勢丹ホールディングスの事例
①海外に30店舗を出店
三越伊勢丹としての海外進出は1975年のイタリア・ローマへの出店が最初で、以降主にアジア地域を中心に2018年9月時点で30店舗を運営しています。 隣国である中国には天津、成都、上海等に伊勢丹として5店舗、三越として1店舗がありますが、その中でも上海市内の最も賑やかなエリア、南京西路に位置している上海梅龍鎮伊勢丹の状況を見てみることにしましょう。
②新設された競合によってやや低調
同店における2018年1~6月の売上高は、前年同期比で8.1%減となっています。近隣には元々競合する大型の商業施設が多いのですが、2017年秋に新しくできた競合施設の影響と担当者は語っています。
②化粧品が売上の約4割
インバウンド消費で化粧品は大きな割合を占めていますが、同じ傾向が上海梅龍鎮伊勢丹でも表れています。 同店の1階フロアは化粧品売り場として大きな面積を確保し、グローバルブランドが並んでいます。2018年1~6月の売上は前年同期比で0.8%増と業績への貢献度の高さが伺い知れます。 さらに4月からは従来靴売り場としていた2階スペースをセミセルフ形式で化粧品を選べる「アイビューティー」に転換、中国人商品者にも知名度が高く人気のある「雪肌精」「DHC」などを導入することで更なる業績アップを狙っています。
③婦人服の落ち込みが顕著
化粧品が好調な半面、婦人服販売が低調です。 中国はECサイトが日本以上に利便性が高く、購買チャネルとしての存在感は非常に大きくなっていることが原因として考えられます。 日本のブランドであっても越境ECという仕組みで中国にいながらにして日本の服や製品を個人輸入扱いで購入できるということも店舗での販売の伸び悩みの一因と言えそうです。 そこでECと価格で競合するのではなく、リアル店舗の強みを活かすためにショーイベントの開催等、コト提案に力を入れて差別化を図っているとのことです。
④実店舗の強みを活かした新たな販売の試みをスタート
このようにEC環境の充実が婦人服販売低調の原因の一つでもある中、その状況を活かす試みも行われています。 これは2階に新設された化粧品販売コーナー、「アイビューティー」では売り場で紹介した商品を購入時には中国最大のECモール、Tモールに出店している三越伊勢丹旗艦店に送客するという仕組みで、店舗で現物を確認し、ネットで買うという購買行動をする客層を囲い込みつつ、売り場で商品を紹介した化粧品メーカーからは家賃収入を得るという試みです。 化粧品だけではなく、その他の製品についても同じ仕組みの導入を検討しているとのことです。
「小売り+不動産」戦略で海外事業を推進
三越伊勢丹HDの18年3月期決算説明会資料によりますと、同社は今後の海外事業における戦略として「小売り+不動産」戦略を進めていくとしています。 これまでのような日本の百貨店のパッケージをそのまま海外に持ち込む形ではなく、複合商業開発やリーシングマネジメント、スマートフォンによる顧客管理、ポイントシステム等のデジタライズ、成都伊勢丹の事例が挙げられていますが日系スーパーマーケットの運営のような独自コンテンツ開発をキーワードに事業を推進してくとのことです。
まとめ
上海梅龍鎮伊勢丹の取組みを見てみましたが、百貨店としての存在感をしっかり残しつつ、中国マーケットの特色に合わせた試みを取り入れることで業績アップを狙っていることが分かります。 日本に旅行で訪れた中国人観光客が日本の三越、伊勢丹で買い物をして、帰国した後に中国の三越、伊勢丹に足を運ぶ、またはその逆といったような送客を誘発する仕掛けがあれば国をまたいだリピーターの獲得が出来そうですが、今後の三越伊勢丹ホールディングスの動向を注視してみたいですね。