インバウンドの増加に伴い顕在化した問題の一つがオーバーツーリズムと呼ばれる問題で、世界各国でも同様の問題が多く見られます。
今回は観光庁が作成した「持続可能な観光先進国に向けて」、「先進事例集」の二つの報告書を元にオーバーツーリズムの現状と今後について見ていきます。
マナーに関する問題が観光地で顕在化
報告書では他の主要観光国と日本を比較した場合、現状ではオーバーツーリズムが広く発生する状況にはないとしています。しかし、混雑やマナー・ルール等が課題となっていると多くの自治体等が認識しているとし、オーバーツーリズムに関する先進事例や持続可能な観光地経営のための指標や事例を紹介しています。 2018年に観光庁等が実施したアンケートによれば、自治体が意識しているオーバーツーリズムの課題は下記のようなものがあります。
オーバーツーリズムの課題
・観光客のマイカーや観光バスによる交通渋滞などの混雑
・トイレの不適切な利用やゴミの投棄
・立ち入り禁止区域への侵入
・文化財の損傷
いずれもマナーやルールによるものが多いようです。
海外のオーバーツーリズムの事例
海外でのオーバーツーリズムの事例というと有名なのはスペイン・バルセロナとイタリア・ベネチアの事例です。 報告書ではこれらの事例と講じられている対策がそれぞれ紹介されています。
①スペイン・バルセロナ
スペイン・バルセロナは、1992年のバルセロナオリンピックをきっかけに観光客が増加、観光客のマナーに対する苦情など、住民と観光客の摩擦が社会問題となりました。 バルセロナは住宅地と観光地が地理的に近いという条件も摩擦の原因と考えられ、観光客の流動、分散化などを研究する機関を設立した上で、エリア分け、観光地の事前予約制導入といった対策がとられています。
②イタリア・ベネチア
イタリア・ベネチアは観光地化によって住民の利便性や歴史的な雰囲気が損なわれる等、問題が指摘されていますが、旅行者の増加によって外国資本が流入、住宅価格が高騰することで居住人口が減少しました。対策としては観光地の事前予約制導入、住居用建物のホテルへの変更規制等が行われています。
国内での取り組みは?
国内でオーバーツーリズムと言えば京都の事例がまず思い浮かびますが、報告では京都市の取組みを下記のように紹介しています。
・親しみやすくわかりやすいマナー啓発リーフレット作成
・閑散期や朝、夜の観光コンテンツ充実による観光客の分散化
その他、以前紹介しましたが乗り降り可能な2階建て観光バスの運行が2019年3月から始まっており、慢性的な京都市バスの混雑解消への対策が講じられています。 観光庁では京都をはじめ、代表的な観光地について関係自治体と協力して、混雑やマナー対策関連のモデル事業を実施、全国への普及を目指すとともに持続可能な観光地経営を行えるように、グローバル・サステイナブル・ツーリズム協議会が開発した観光業界向けの国際基準、「GSTC-I」、観光地向けの「GTSC-D」を紹介しています。
まとめ
2020年には東京オリンピックが控える中、インバウンド数は右肩上がりで増加していますが、増加のスピードと問題の顕在化、対策がかみ合っていないのも事実です。 将来に渡り継続的に観光立国として日本がふるまうためにはオーバーツーリズムに対してしっかりとした対策が必要になります。