体験そのものに価値を見出すコト消費の本命として大きく取り上げられた農家民泊、略して農泊ですが、観光資源が潤沢とは言えない地方でも日常をサービスとして提供できるという点、一極集中を避けて地方へ送客し、増加する観光客の受け皿を用意したいという国の思惑ともかみ合う、いわば提供する側から見て魅力的な仕組みと言えます。
では、利用する側からみた場合に農泊のなにが人気なのでしょうか?
農泊について再確認
農泊については過去「地方に人を!「農泊」はコト消費の本命になり得るか?」にも何度か取り上げていますが、おさらいをしておきましょう。 農村や漁村に宿泊し、現地での生活を体験する農泊ですが、起源を辿ると1992年に疲弊する農村に対する対策の一環として提唱されたグリーンツーリズムまでさかのぼります。 当初は小学生中心の教育旅行のニーズが見出され、利用者を拡大しながら発展してきましたが、農家民宿経営者の高齢化や過疎化などの問題は依然残ったままでした。 2016年に発表された「明日の日本を支える観光ビジョン」では「滞在型農山漁村の確立・形成」がその施策の一つとして挙げられ、個人旅行や増加するインバウンドをターゲットにする動きが出ており、 2016年度には1126万人が農泊を宿泊利用しており、外国人観光客の利用も増加傾向にあります。
インバウンドに農泊が人気
観光庁が行った2017年の訪日外国人動向調査によると、訪日外国人が次回したいこととして「自然・景勝地観光」が42.9%、「自然体験ツアー・農漁村体験」が15.6%の回答を得ています。 このように初来日で食事やショッピングを楽しんだ訪日リピーターはより日本らしい体験を求めている、ということが言えそうです。 2018年度に九州を訪れたインバウンドは初めて500万人を超えましたが、熊本県内で農泊を推進している阿蘇地域でも観光庁の調査を裏付けるようにインバウンドの利用が増加しています。 同地域は2000年から修学旅行生などの教育旅行需要の受け入れを行っており、阿蘇市や南小国町など約80軒の農村民宿が、農作業やかまどを使った炊飯体験などを提供しています。
課題は継続性
農泊は農林水産省が交付金などを使った支援を行うなど、国も期待を寄せている事業ですが、農村の生きがいづくりを公費を活用して行ってきたという経緯から、ビジネスとしての取組みとしてみた場合に農泊運営者の姿勢が淡泊な印象があります。 多言語対応等を含めたインバウンドに関する課題と同様の課題が農泊にも存在していますが、インバウンドを誘致するためにはインターネットで予約できる仕組みの導入が必須となるなど、より主体的な取組みが求められます。
まとめ
訪日リピーターの興味を農泊は満たせるといえますが、しっかりとインバウンドにアピールできるプロモーションが必要になりますし、農家の日常を体験として提供する際の切り口やパッケージとしての見せ方等、ターゲットが誰なのかによっても工夫が必要になるでしょう。 地域全体が同じビジョンを共有し、継続可能な産業として取り組むことでポテンシャルの大きいインバウンド需要の誘致が実現するのではないでしょうか?