医療ツーリズムとは自国では受けられない先進的な医療を受けたい、というニーズや医療費が自国よりも安いという理由で海外で医療行為を受けることを差していますが、中国では日本で医療行為を受けるツアーが注目を集めています。
医療ツーリズムの目的地がアメリカから日本へ
中国人にとっての医療ツーリズム目的国といえばアメリカが一般的でしたが、近年は医療レベルの高さ、受け入れ態勢、医療費負担の公平性などを理由に日本の人気が高まっているといいます。 また、日本は中国からの物理的な距離が近く、治療と共に観光も可能であることも人気の理由の一つになっていると考えられます。
医療ツーリズムを仲介する業者が増加
日本で中国人が医療行為を受けるためにはビザの申請、病院の予約、病歴の整理などの手続きや準備が必要ですが、このような手続きを行う仲介業者も増加しており、マーケットが拡大している反面、日本政府が求める専門性の高い医療通訳ではなく、留学中の学生を雇うというケースも見受けられ、医療で使用される専門用語が分からないことが原因の誤訳などが起きているといいます。 また、本来は4万元(約65万円)程度の健康診断を含んだ医療ツアーを13万元(約210万円)と3倍以上で販売するなどの業者が適切な価格での医療サービスの提供を阻んでいるという事例も出ているといい、是正が求められています。
インバウンド向けに医療ツーリズムを提供するメリット
医療ツーリズムをインバウンド向けに提供することで得られるメリットとして、観光消費額の高さがあります。 医療ツーリズムで訪日する観光客は、海外で治療を受けることができる金銭的に余裕がある層であることがあり、治療と同時に観光も行うことから観光消費額が高くなる傾向になります。 また、インバウンドが日本で治療や検診を受ける場合は外国からの患者の場合、すべての費用を実費で請求することになるため、日本人と比較した場合3倍ほどの金額が病院の収入となり、病院経営という側面から見た場合には設備や待遇等に還元することができます。
保険加入の新しいアイディア
一方、インバウンドが訪日中に病院での診察や治療を受けた際の費用の未払いが問題となっており、過去記事『顕在化した医療費未払い問題 対策と今後の課題』等、何度かこのブログでも取り上げています。 そのような中、7月22日から開始された企画乗車券「TOKYO STARTER KIT」は東京を訪れるインバウンド向けに、海外旅行保険を含むメディカルサービスが付帯されており、新しい保険加入への取り組みとして注目を集めています。 「TOKYO STARTER KIT」は都営地下鉄全線と東京メトロ全線が72時間乗り降り自由となる「Tokyo Subway Ticket」に加え「都バス一日乗車券」、さらに専用のインバウンド向け海外旅行保険がセットになっている商品で、東京海上日動火災保険株式会社と東京都交通局の提携によって生まれました。 医療費未払いの背景には海外旅行保険加入率の低さが要因の一つに挙げられていましたが、「TOKYO STARTER KIT」の発売で海外旅行保険加入率が上がればインバウンド、医療機関双方にとって大きなメリットが期待できます。
まとめ
2020年にインバウンド数4000万人を目標に掲げ、実現も夢ではないところまで来ている日本ですが、消費額についての目標額8兆円はかなり厳しい、というのが現在の見通しです。 そこで日本での医療を受けたい中国人と消費額の高いインバウンドを誘致したい日本の思惑は一致を見るわけですが、今回の記事で触れた課題の他にも国民健康保険の悪用や医療トラブルの可能性等、医療ツーリズムには解決が必要な課題がまだまだ残されています。