民泊新法(住宅宿泊事業法)の施行直前の記事でも触れた通り、届出が伸び悩んでいます。
増え続けるインバウンド人口に対して宿泊施設の不足が叫ばれる中、民泊新法によって合法的な民泊施設を増やし、受け皿とするという趣旨で施行されたはずですが、実際には思惑とは逆に働いているように思えます。
民泊新法施行から約2週間経過した2018年7月上旬時点での状況について調べてみました。
民泊届出件数は3,728件に留まる
6月26日に行われた規制改革推進会議で観光庁が明らかにした内容によりますと、民泊届出の件数は 3,728件、受理済となっているのが2,210件となっていることがわかりました。 大手民泊仲介サイトに登録されていた民泊物件の総数は全国で約6万件あったことからすると、この数字は少なすぎると言わざるを得ません。 届出を行わない民泊事業者が多数を占めている理由として、年間営業日数の上限が180日に設定されていること、20種類ほどの書類が必要で、平均すると5回前後行政機関に通うことになる等が指摘されています。
民泊仲介サイトの対応
民泊新法はホストとして民泊事業を行う個人や事業者だけでなく、民泊仲介サイトも違反した場合は罰則の対象となります。そのため、民泊仲介サイトもそれぞれに対応を行いました。
Airbnbは違法民泊をサイトから削除
民泊仲介サイトの最大手、Airbnbは民泊新法を受けてホストに対して施行日である6月15日までに届出が必要であり、届け出がない物件についてはサイトから削除することをアナウンスしていましたが、事前の通知なく6月2日に前倒しで削除を実施しました。 また、6月15日以降の違法物件への予約についても強制的にキャンセルを行いました。
Booking.comも物件の削除と予約のキャンセル
オンライン宿泊予約サイトでは世界最大規模の一つ、Booking.comもAirbnbとほぼ同様の対応を見せています。 6月11日の午後6時の段階で登録番号の記載がない民泊物件はサイトから削除、予約についてもキャンセルしています
Expedia子会社のHomeawayも削除を検討中
世界最大級のオンライン宿泊サイトとして知られるExpediaの子会社、HomeAwayは6月15日時点で届出番号等が記載されていない民泊物件は非公開にする等の対応を検討しています。 このように民泊仲介サイトは合法的にビジネスを行うためには違法民泊物件を取り扱うことができないため、強制的に削除を行うという措置をとっていますが、ホストだけではなくゲストに対しても強制キャンセル等の影響が出ています。
各社まとめ
各社ゲストに対しての影響を最小限抑えるべく、全額返金、代替宿泊施設への予約の案内等を行っていますが、ほとんどのゲストが訪日直前に宿泊先をキャンセルされており、代替となる宿泊先を探す労力や旅行の日程を調整する心理的なストレスを考えると対応が充分なものと言えるのかどうか、疑問は残ります。 また、民泊物件が極端に少なくなり、外国人観光客から探しにくくなったことと、限られた営業日数で利益を出すために届出済みのオーナーが値上げをしたことで、民泊のコストメリットが少なくなっています。 このようなことが続くと訪日旅行・インバウンドそのものに水を差してしまうという可能性も出てくるでしょう。
民泊新法で民泊が終わる?
インバウンドの受け皿としては機能しない?
民泊は不足する宿泊施設をカバーする存在として国も活用したいという意向があるからこそ、周辺住民の日常生活を旅行者が侵食してしまったり、マンション等のセキュリティが事実上機能しなくなったりする等の問題を解決するための手段としても民泊新法を施行したという背景があります。 しかし、観光庁によると2017年7月から9月の間に日本を訪れた外国人観光客の12.4%が民泊を利用したというデータもあることから、 6万件以上あった民泊物件が数千件になった場合、改めてインバウンド人口の受け皿をどうする、という問題が浮上しそうです。
撤退を視野に入れる民泊ホストも
今だに届出を行っていない民泊ホストの中にはビジネスとしては難しいので撤退するという人達が少なくありませんが、中には違法を承知でこのまま営業を続ける、というホストもいるようです。 民泊ホスト側からすると集客するためには民泊仲介サイトに登録する必要があるのですが、海外向けの仲介サイトで日本には情報が流れないサイトに登録する、という方法があるとも言われています。
まとめ
違法民泊が地下で横行するようになってしまうとこれまで以上に規模や実態を把握するのが難しくなり、対策も取りにくくなることが予想されますが、民泊の今後の在り方について再度検討が必要なのではないでしょうか。