インバウンドの増加は大きな消費を生み、今後人口減が予想される日本としては将来に渡り継続的にインバウンド獲得することが一つの活路と考えられていますが、対策が必要な事案も同時に発生しています。
今回はインバウンドによって野生動物にも影響が出ている、というケースを紹介します。
野生の猿がゲレンデに出没
長野県のスキー場ではインバウンドの増加が原因で野生の猿による害が発生しています。 1998年に行われた長野オリンピックの会場にもなったこの名門スキー場には多数の外国人スキー客が訪れるようになりましたが、野生の猿に気軽に餌付けをした結果、猿たちも人を怖がらなくなり、ゲレンデや駐車場に姿を見せるようになったと考えられています。 地元宿泊施設の従業員によると猿に土産物の袋を破られたりひったくられたりするような被害や、鍵がかかっていない部屋に侵入してくるなど、猿たちはかなり大胆な行動を取るようになっており、対応に苦慮しています。
奈良公園の天然記念物・鹿による被害が多発?
日本を代表する観光名所の一つが奈良県にある奈良公園です。 奈良公園といえば天然記念物の鹿が多数生息しており、ふれあいを楽しむことができるため、訪日外国人観光客にも大人気となっています。 しかし、2018年度の鹿によるケガ人は209人と過去最悪の数となっており、5年前と比較すると約4倍にまで急増しています。 ケガの多くは、公園内で販売している鹿せんべいを鹿に与える際に指を噛まれてしまう、といった軽いけがが多いといいます。 また、雄の鹿は9月から11月にかけて発情期を迎え、気性が荒くなります。大きなケガはこの時期に集中しています。 奈良公園内を鹿が闊歩する様子を見るとインバウンドは飼育、管理されているものと勘違いするかもしれませんが、奈良公園の鹿は人に慣れているとはいえ野生動物で、誰かが管理しているものではありません。 鹿せんべいを与える際になかなか与えずにじらしたりすると鹿もイライラしてしまい、ケガに繋がる可能性があることから、公園内には40カ所に注意喚起の看板を設置したり、インターネット上で注意を呼び掛ける動画を配信するほか、奈良の「鹿愛護会」やボランティア団体がパトロールを行うなどの対策を講じています。
マナーが悪いから、とは言い切れないが…
奈良公園のケースではケガをする人に中国人が多く、マナーの悪い中国人が目立つことから、それがケガにつながるのでは?という意見もあります。 しかし、これについてはインバウンド数を国別に見ると中国が最も多く、単純に奈良公園を訪れる中国人観光客が多いという母数の問題だと思われます。 一方で、長野県のスキー場のケースについては地元民が野生の猿との距離を置いた生活をするため餌付け等をしてこなかったのに対し、物珍しさからインバウンドが餌付けをした、ということが原因の一つになるでしょう。
まとめ
今回紹介した2事例以外にも宮城県、松島の遊覧船ではカモメに観光客が餌付けすることが禁止になるなど、野生の動物との接触によって周辺の生態系に影響を及ぼしてしまうという事例が多数あると思われます。 地元の人であれば承知しているようなルールだとしても、インバウンドはもちろん日本人であっても違う土地から来た観光客には理解できない、ということが多数あることを考えるとインバウンド誘致と周辺環境の保護・維持策はセットで実施されるべきですね。