この特集にあたって
- 「コロナ禍での観光業界の具体的な状況を知りたい」
- 「観光に携わる方々がこの状況をどのように捉え、動いているのか?」
この記事はそのような方へ向けて書いています。
(この記事は2022年1月12日の取材をもとに作成いたしました)
今回は「京ごふく ゑり善」
今回は「京ごふく ゑり善」の亀井さんにお話を伺いました!
ゑり善さんは、天正12年(1584年)に京染屋として創業した呉服屋さんです。
ゑり善さんのこだわり抜かれた着物は、多くのお客様を魅了しています。
ゑり善さんのHPはこちらです↓
着物の伝統と魅力を多方面に提供している亀井さんに、コロナ禍の様子や取り組みについてお聞きしました!
>プロフィール
株式会社ゑり善 代表取締役社長
亀井彬
1. ゑり善について
-ゑり善さんは400年以上の非常に長い歴史を有していると思います。時代に伴って扱うものや販売するものは変化しているのですか?
創業当初は日本人の多くが麻のきものを中心に着ており、高級品である絹の着物をなかなか買えなかった時代ですね。
最初は和装小物で商いをしておりましたが、その後、明治後期から大正にかけては和装小物の他に半襟を扱うようになりました。
この時代の女性は半襟に柄を入れたり色を入れたり、見えないところのおしゃれを楽しんでおりました。
そして、日本人のみなさんがより豊かになってお着物が購入できるようになった時期に、弊社も半襟だけではなくて着物とか帯とか、そういったもののお手伝いをさせていただくようになりましたね。
-お着物も洋服のような、その時代にあわせた色や柄、トレンドはあるのですか?
お着物もファッションですので、ファッションとしての楽しみを追求されているお店もございます。ちょっとクールでかっこいいものを着物としてつくりたいとかですね。
ただ、私どもは流行を追わないんです。
流行を着物で表現してしまうと、その年の流行に沿ってつくられた着物は、次の年や次の次の年はある意味で流行遅れのものになってしまいます。
ですので、ことゑり善では流行り廃れのない、長く使えるような古典柄を扱っております。
かといって全く同じものをつくっているかというとそうではなくて、色とか柄とかにちょっとこだわりがあるとか、よく見るとおしゃれな心がこもっているとかはありますね。
孫の代に受け継がれても、「おばあちゃんの時代でも良い着物だったけど、今着てもおしゃれだよね」、というものをできるだけつくりたいと思っております。
-着物の購入目的として、主に旅館の女将さんのような仕事着としてのイメージがあるのですが、お客様としてはどのような方がご利用になられているのですか?
実は、お着物を楽しむ方法は様々ありまして、おっしゃるように旅館の女将さんや料亭の女将さん、茶道・華道をされている方々のお着物というのもございます。
一方で、日常着で着ている方も多くございます。
仕事着としての印象をもたれがちですが、本当は、少しお食事しようとかお出かけしようという時に、お着物を気軽に楽しんでも大丈夫なんですよ。
ですので、普段は洋服で過ごされていてお休みの日にはお着物を着るような方も沢山おいでになられますね。
―そうなんですね、では実際に着物をご購入される方の年齢層についてはいかがですか?やはりご年配の方が多いのでしょうか?
お着物を買うと私たちのお店では、少なくとも10万から20万ぐらいはするんです。
20代の方が簡単に買えるかというとそうではありません。
ですので、やはりご年配の方が多いですね、60~70代ぐらいの女性の方が大半です。
とはいえ、30・40の世代の方もお着物に興味をお持ちの方が多くおられまして、例えばお子さんが生まれて、そのお子さんの行事毎にお着物をお召しになりたいとか。
また、50・60の世代では、お嬢さんの成人式の振袖を探している方や、子育てが終わり少し心の余裕ができたため、家に沢山あったけど着方が分からなかった着物を使っていきたいという方がおられます。
70代・80代の世代の方の中には、お着物を小さいことからずっと慣れ親しんでこられて、お着物が大好きで、普段からお着物を着てお買い物に行かれるような方もおられます。
大きくはこの3つのカテゴリーのお客様がメインのターゲットというところになりますね。
2. 着物業界とコロナ禍
-多くの日本人が洋服を着るようになって久しいですが、着物業界の現状についてお聞きしてもよろしいでしょうか?
和装業界の一番売上が良かった時で2兆円規模だったといわれておりまして、現在は新型コロナウイルスの感染拡大も受けて、2500億を下回る売上になっております。
ですので、市場規模としては、最盛期から約1割強ぐらいに縮小しているといえます。
右肩下がりで歯止めがかからずコロナの影響も受けているということで、業界としては非常に厳しい状況にはなっておりますね。
-コロナによる影響について教えてください。
着ていく場の喪失という、着物を持っておられても使い道がなくなってしまったことが、コロナの一番大きな影響です。
実は装いというのは、人と集うから必要なところがやっぱりあるんですね。
集まってお食事をしたりその人と共に過ごす時間に対して、衣服で気持ちを込めるというのがありましたので、、
着る機会がなければ、当然購入やあるいはメンテナンスも発生してこないので、業界はかなり大きな影響を受けたのが現実ですね。
最近は、お出かけで着物を着たりお集まりで茶道・お茶会があるとか歌舞伎がはじまるなど回復の兆しはありますけれども、やはり大きな影響を受けたのは間違いないです。
―コロナ禍での気づきや気持ちの変化はありますか?
コロナ禍というのは、私にとって物事を再定義するにはすごくいい機会だと思います。
お着物がお客様に対してどんな意味があるのかとか、僕ら自身が着物業界のためにどういう存在であるのかみたいなことを考える機会になったなというのが率直な感想です。
そして、お客様とお話しする中で、「大事な人と大切な時間を過ごすにはやはり美しいもの、相手への思いやりを込めた衣服を着たい」という声や、「着物を着てお出かけすることで心の安らぎのようなものを味わえる」などの声をいただくなど、本当に大勢のお客様から着物の本質的な価値を教えていただくことができたというのが、コロナが与えてくれたとても大きな恩恵だと思いますね。
-事業に関しては何か新しい取り組みをしていますか?
呉服の販売というところで考えますと、やはりお客様のことをよく理解しないといけません。至極当たり前のことではありますが、お客様との接点の中でいただいたヒントやアイデアをできるだけ社内で共有していくことに取り組んでいるところです。
また、若い人たちにもノウハウを伝えていかないといけないということで、60、70代のベテラン社員の手も借りながら、営業のあり方や販売の姿勢など次の世代に引き継いでいくことに非常に注力していますね。
3. 亀井さんの想いとこれから
-会社を引き継ぐ際に葛藤などありませんでしたか?
ゑり善に勤める前は元々全然違う仕事をしていたのですが、その後転職でこの会社に入社する際に、売りたいもの・売れるものがなくなってきている状況を説明されました。
入社前、私自身は着物を買われるお客様が少なくなっているという問題点を感じていましたが、それよりも販売したいと思えるような、あるいは扱いたいと思うようなものが世の中からどんどんなくなっているというものづくりの危機を知り、非常にショックを受けました。
業界に戻ってくるかこないかは好きにしたらええと言われたこともあります。
しかし、逆に誰かがやらないといけないことでしょうし、ご先祖さんのことを思うと僕がやらなきゃ誰がやるんだという思いが出てきまして、、
それからは踏ん切りがついたといいますか、迷わず仕事をしているところはありますね。
―その問題に対して、現在行っている取り組みなどありますか?
「ほんまもん」を実際に見たり、触れたりしていただくこと。
そして、一人でも多くの方に「ほんまもん」を知っていただくための発信を続けております。
職人さんの想いや技術というのは、ものすごく細部に宿っているんですね。
同じ白いシルクの生地でも、織り手が変われば風合いが変わりますし、色の染め上がりが変わるんです。
日本人は本来、豊かな自然に囲まれて、変化の多い四季を味わえるという環境で、すぐれた美意識を共有し・モノを見る”目”を養ってきた民族だと思います。
しかし、近年、オンライン上での、もののやり取りが増える中で、「ほんまもん」が分からなくなってきているような気がしています。
ですので、今はリアルな店舗の活かし方を常に考えていますね。
オンラインで、ものを売買するのではなくて、現場で触れて、触って、いいものを知ってもらいたいという想いがすごくあります。
リアルな感触や体感を残しておける場所として店舗を活かす。それがひいては、いいものづくりを支える根底になると信じています。
―最後に、今後の目標や取り組みについて教えてください!
お着物を装う楽しさを知っている方を増やしたい、その一点ですね。
見えないところにこだわる日本の美意識や、日本人の四季に基づいた感性はすばらしいものです。そして、お着物を着て相手と会った際に、そのお着物の色や柄の意味をお互いが何も言わずとも理解することができる。
それは日本人の中で美意識や感性が共有されている、すなわち教養があるからこそできることです。
私は、お着物を着て楽しい時間を過ごしていただくことが、ひいては日本人としての誇りを取り戻すことができると考えています。
ですので、着物を装う喜びをより多くの方に味わってもらい、日本のことをより好きになっていただけるような、そういうお手伝いができることに大変社会的な意義があるのではないかと思っております。
中井の一言コメント
今回の取材を通して、ゑり善さんが今も昔も人と人との繋がりを通じて、呉服・着物の伝統と魅力を発信されていることがわかりました。
また、取材時には、着物の生地質や柄の意味、そして日本の伝統文化への想いを熱く説明してくださり、亀井さんの着物と日本文化への大きな愛を感じました。
亀井さん、この度は取材に応じてくださり本当にありがとうございました!