右肩上がりで増加を続けるインバウンド数ですが、毎年過去最高を更新し、2020年の4000万人が視野に入ってきました。
過去に例のない多数のインバウンド受け入れるにあたり、各地では様々な対応に迫られていますが、中でも急務と言えるのがオーバーツーリズム問題です。
今回は京都で深刻化するオーバーツーリズム問題とスタートした対策について見ていきます。
オーバーツーリズムとは?
オーバーツーリズムとは観光客が増加することで元々住んでいる地元住民の生活に支障が出る現象をさし、観光公害とも言われています。 有名な事例としてはイタリア・ヴェネツィアでのオーバーツーリズムで、地元住民がデモを起こす等の問題になっています。 日本では、年間740万人もの観光客が訪れる京都で地元住民の生活に支障をきたし始めています。 具体的には路線バスの観光客による利用によって地元住民が利用できない、住宅密集地での民泊増加による騒音被害等が挙げられます。 インバウンドをいかにもてなし、満足度を向上させるか、というところに目が行きがちですが、地元に住む人たちの生活の質を維持、向上させるという視点も併せ持つ必要があると言えます。
京都市が乗り出したオーバーツーリズム対策
京都市は2014年に策定した「京都観光振興計画2020」を2018年5月に京都市の観光をめぐる環境の変化を理由としてアップデートしました。 アップデートされた計画では市民生活と観光の調和を謳い、「外国人観光客の急激な増加とマナー問題」、「無許可民泊施設の増加」。「観光客の集中と混雑」を課題として挙げ、オーバーツーリズムについての対策が明文化されています。 中でも観光客の集中と混雑に対しては時間、季節、場所の3つの分散化を進めていくという方針ですが、そのひとつの施策として、『とっておきの京都、定番のその先へ』というプロジェクトがスタートしています。 そこで分散先として2つのエリアが挙げられています。
分散先の主要エリア
①京都駅南側の伏見エリアへ送客
まず、京都駅南側の伏見エリアですが、外国人観光客を含めて旅行者が大挙する伏見稲荷大社がありますが、その周辺はほとんど注目されていません。 しかし、周辺には地元の酒蔵や大手筋商店街などの見どころが多いことから、伏見稲荷大社を訪れた外国人観光客を回遊させるための取り組みを始めています。
②かつてのナンバーワン観光地・大原
もう一つ分散先として挙げられているのが大原です。昭和40年代には京都市内でも最も人気を集める観光地でしたが、今ではピークの3分の1程度の集客に留まっているという同エリアは四季折々の風景が楽しめる他、地元で採れる大原ブランドの野菜も人気があります。 大原エリアには三千院や宝泉院などの見どころも多いのですが、京都駅からバスで1時間ほどかかり、時間帯によっては渋滞に巻き込まれる可能性もあるという点がネックでした。 そこで、京都市では「地下鉄・バス1日乗車券」を活用すれば20分程度でアクセスが可能と提案しています。
まとめ
政府目標のインバウンド4000万人は地方へのインバウンドの誘客推進によって需要の分散化を前提としていますが、絶対数の増加によって定番の観光地にはより多くのインバウンドが訪れるということもまた事実です。 今回取り上げた京都だけではなく、既に過剰な観光客によって景観が損なわれていると言われる富士山や北海道・富良野等のインバウンドにとって人気の観光地もいずれ京都同様のオーバーツーリズム問題に直面することになるかもしれません。 インバウンド誘致を持続可能なものとするためには地域住民との調和をどのように実現するか、という議論を避けて通ることはできないことを考えると先行事例となる京都市の取り組みやヴェネツィア、アムステルダム等の世界でのオーバーツーリズムの事例からも目を離すことができません。