新型コロナウイルスの集団感染が発生したことで注目を集めた大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」ですが、クルーズ船は寄港先に大きな経済効果をもたらすとして各地が誘致を勧めていました。
しかし実際のところはどうなのでしょうか?
クルーズ船の魅力とは?
まずクルーズ船について人気の理由を確認しましょう。 クルーズ船はカジノや映画館等の施設を備えたいわば移動する大型娯楽施設です。移動手段としての効率では飛行機の登場により主役ではなくなった船ですが、移動手段ではなく、移動中も楽しむ、という切り口にすることで大人気になりました。 クルーズ船はいわゆるゴールデンルート以外の地域にも観光客を誘致することが可能、ということもあり、国土交通省もクルーズ船の誘致に積極的な動きを見せていました。
クルーズ船が寄港しても地元に得はない?
大型のクルーズ船の定員は2000名を超えます。仮に2000人の乗客が寄港地で1万円ずつ消費したとしたら、それだけで2000万円の経済効果が得られることになります。 これがクルーズ船に期待が寄せられる理由になるのですが、継承を鳴らす声も少なくありません。
長崎に寄港したクルーズ船の事例
長崎ウエスレヤン大学 現代社会学部の登り山和希准教授が発表した論文の一部を紹介してみます。 中国出発のクルーズ船が長崎港に寄港すると、乗客が入国手続を済ませた後、100台以上のバスが乗客を乗せてターミナルを出発します。行き先は長崎市に隣接する諫早市に所在するJ社の免税店。 ターミナルからは高速道路を利用して20分程度で到着するこの施設はクルーズ船対応のために作られた店舗であるといってよいでしょう。 近隣には、「長崎ちゃんぽん」やとんかつのチェーン店、また、長崎カステラのブランド店も立ち並んでおり、時間によっては利用する観光客で賑わいを見せています。 一般的にツアーグループはこのような形態で約3店舗を回り、出航までの残り時間で長崎市内の観光地を見学するということになります。 登り山准教授は万人単位で来訪する外国人観光客が存在するにもかかわらず、地域内の経済活動にはほとんど影響を与えていないと指摘し、恩恵を受けているのはツアーを企画している海外の旅行会社と提携している外資系の免税店と、その周辺の飲食店だけだということに改善の余地はないのかと問題提起しています。
長崎を訪れた観光客のリピート意欲が低い?
日本銀行長崎支店が県内の訪日外国人旅行についてまとめたレポート「長崎県の観光産業 の現状と課題─“魅力の宝庫”を“魅力の倉庫”としないために─」も登り山准教授の指摘を裏付けています。 このレポートでは長崎を訪れた観光客のリピート意欲が他都道府県に比べて低い傾向があるとしており、観光地としての魅力を正しく発信できていないのではないかと危惧しています。 長崎市には世界遺産を含めてたくさんの観光資源がありますが、現状のクルーズ船ではその魅力を伝えることが出来ていない可能性があります。
まとめ
今回紹介したのは長崎市に寄港するクルーズ船の事例ですが、クルーズ船の誘致が地元経済の活性化に直結するわけではない、ということがわかります。 継続的なインバウンド誘致を実現するためにはリピーターを獲得することが重要ですが、そのためにはしっかりと地元の観光資源を楽しんでもらう必要があります。 クルーズ船のポテンシャルに疑いの余地はありませんが、活用の仕方について検討の余地は大きくありそうです。