かつて訪日旅行といえば団体で訪れてバスに乗って名所を回る団体ツアーが主流でしたが、訪日リピーターの増加やビザ発給条件の緩和などを背景に個人や小グループでのプライベートなツアーが増加しています。今回は二つの事例を紹介しつつプライベートツアーがなぜ人気を博してるのかを説明していこうと思います。
事例①『ホープツーリズム』
参照:https://www.hopetourism.jp/
2017年に開業した「OTOMO」は少人数を対象にしたプライベートツアーの企画に注目し、全国9都府県で事業をスタートしています。
ホープツーリズムによる学びが好評
同社のツアーの特徴として挙げられるのが自然災害の被災地などを訪れ、復興の様子や再生への思いから学びを得る「ホープツーリズム」です。 2019年6月からはじまった兵庫県でのツアー展開では企業のミュージアムや酒蔵巡りなどの定番テーマともに「阪神・淡路大震災、そして復興の歴史を知る」がテーマに加わりました。
ツアー成功のポイントは通訳ガイドの力
このツアーは神戸市中央区にある神戸港震災メモリアルパークから南京町や旧居留地を通り、東遊園地までの約2キロのコースを歩きながら震災の傷跡や復興の様子等を当時の出来事を振り返りながら見ることができますが、ポイントとなるのは通訳ガイドの力です。
詳細な質問に対応できる準備
同ツアーへの参加者からは「震災後にインフラが復旧したのはいつ頃か?」といった具体的な質問が寄せられていますが、事前に文献や地元住民からの聞き取りなどを行い想定される質問に対して準備を行い、適切な回答やより深みのある案内を行っています。 ツアーに参加したインバウンドは通訳ガイドの助けを借りながらお店の店主や住民との交流を楽しむと共に 地震の恐ろしさとそこから立ち直った人々の努力を知ることができた、表面的な観光では気づくことのできない様々な出来事に触れることができたという感想を残していました。
事例②『トウホクローカル シークレットツアー』
参照:https://www.tohoku-local-secret-tours.jp/
日本版DMO法人・(株)インアウトバウンド仙台・松島は仙台市を訪れるインバウンドに地元ならではの暮らしや習慣を感じてもらい、飲食などで消費を促す狙いで「トウホクローカル シークレットツアー」と銘打った着地型プライベートツアーを商品化し、好評を博しています。
横丁ではしご酒、古民家で芋煮会
仙台市青葉区のレトロな雰囲気が漂う「いろは横丁」を舞台に行われたバーホッピング(はしご酒)では様々なお店の料理とお酒に舌鼓を打ちながら独特の雰囲気を楽しみ、お店や地元の人との交流も味わうことが出来て楽しかった、と満足感の高さが伺えるコメントを聞くことができました。 その他、自分達で収穫した秋野菜を古民家に持ち込んでの芋煮会や酒蔵を巡っての利き酒体験等、一般のツアーとは差別化を図っていることも特徴です。
通訳ガイドが果たす役割とビジネスの可能性
「OTOMO」が行っているインバウンド向けのプライベートツアーという切り口は特に新しいものではなく、トリップアドバイザーを見ると多数のジョブホッピングツアー、料理体験、武道や日本の伝統的な習い事体験などが紹介されていることからもニーズがあることが分かります。 しかし、その中でも人気のあるツアー、ないツアーが出てくるのはなぜでしょうか? 要因の一つとしてコミュニケーションの質が考えられます。 単純に語学が出来る、というだけで居酒屋を案内するツアーと、居酒屋での楽しみ方を料理の材料、調理法、地方による違い、日本酒の楽しみ方といったような情報をしっかりと伝達しながら居酒屋で楽しんでもらうツアーでは当然評価も変わってきます。 「OTOMO」が展開するホープツーリズムツアーは通訳ガイドの質の高いサービスによって成り立っている、ということが言えるでしょう。 2つめの事例として紹介した(株)インアウトバウンド仙台・松島はインバウンド接客支援ポータルサイトを運営し、主要国からの訪日観光客をもてなす際のポイントや業種ごとの接客ツールの無償ダウンロード、ブラウザ経由で多言語メニューが作成できるサービス等を提供し、インバウンドを接客するお店側の支援を行いつつ、地元を良く知る通訳ガイドが質の高い案内を行うことでバーホッピング他のプライベートツアーを成功させています。
まとめ
増加するインバウンドに対して不足が懸念される通訳ガイドですが、法改正によって国家資格である全国通訳案内士の他に資格を取らなくても報酬を得て通訳することが可能な地域通訳案内士が生まれています。 しかし、過去記事の「低い合格率「通訳案内士」が規制緩和?それでも人が増えない理由」にも触れているように誰でも通訳をすることができるようになることで質の担保が難しくなる、という問題が持ち上がっています。 今回の事例でわかるように、ビジネスとしてプライベートツアーを成立させるポイントはプロフェッショナルな通訳ガイドだということを押さえておく必要があります。