東日本に記録的な大雨をもたらした台風19号など、ここ数年台風や地震などの災害が発生している日本ですが、災害発生時の情報提供や対策は重要度が高い課題となっています。
訪日外国人観光客が災害に遭遇した際にどのようにして安全を確保し、ケアをするのかいう点について、政府の対応や現状の課題を見ていきます。
観光庁は外客安全対策官のポストを要求
観光庁は2020年度の組織・定員において災害発生時にインバウンド安全や安心を確保することを目的とした「外客安全対策官」のポストを要求しました。 担当職員は国際観光部に配置され、観光庁で5人、地方運輸局で計20人の増員をすることで有事の際のケア体制を充実させることが狙いです。
大阪では実戦形式で対応を学ぶ講座が開催
大阪市内では9月6日に地震、台風などの災害時にインバウンドに対してどのように対応するべきかを学ぶための「災害時多言語対応講座」が行われました。 参加者はインバウンドに接する機会が多い事業者が中心ですが、参加者がそれぞれ役割を担当し、ロールプレイ形式で美術館、駅、観光案内所でインバウンドが大地震に遭遇した、という状況を想定、どのようにしてインバウンドに情報を伝え、安全を確保するかを学びました。
災害時のインバウンド対応事例は?
このように政府や自治体は災害時のインバウンド対応を行うための体制づくりや指導の機会を設けるなどの施策を進めていますが、これまでの災害時はどのようなケアが行われたのでしょうか?
関西国際空港では
2018年6月18日に大阪を襲った大阪北部地震は最大震度6弱と大きな被害をもたらしました。 特に関西国際空港では交通機関が不通となったため、足止めを余儀なくされる旅行者が多数でてしまいました。 大阪観光局は2017年3月に多言語対応が可能なコールセンター、「大阪コールセンター」を開設していたため、インバウンドからの問い合わせに24時間対応を行った他、地震の情報や交通状況を多言語で配信する「大阪防災ネット」等を活用しました。 一方では情報を求めてインバウンドがSNSや旅行口コミサイトを利用していることから、情報配信が十分とは言えなかったことが考えられ、情報配信手段の一つとしてSNSが有効ではないかという意見が出ています。 また、関空と大阪市内を結ぶ南海電鉄は通訳アプリ等をインストールした案内用タブレットを28駅に設置していますが、今回の地震で外国人観光客への情報提供に活用されており、タブレットや翻訳端末を活用しての多言語対応の一つのモデルになるのではないでしょうか?
インバウンド向けの情報伝達 改善すべきポイント
このブログでも災害時の対応について、過去記事『鹿児島での70万人の避難勧告。外国人には届くのか?』でも取り上げていますが、改善が求められる点についてまとめると以下のようになります。
伝達手段の見直し SNSの活用
コールセンター、多言語対応ウェブサイト、観光庁の災害情報配信アプリはいずれもインバウンドからの認知度が低く、活用されているとは言えない様子です。 即時性が要求される場面ではSNSの特性を生かした情報配信と拡散が適当な場合が多く、SNSを経由して各種災害情報ウェブサイトやコールセンターへの誘導、という体制が適当ではないでしょうか。
宿泊施設の対応が重要
インバウンドが被災した場合、主に下記のような方法が情報入手に使用されています。情報を入手していることが分かります。
・日本語話者はテレビ・ラジオ
・それ以外は母国語のウェブサイトやSNS
・宿泊先の従業員に尋ねる
特に災害が発生した時間や電力供給の問題などがある場合、スマートフォンなどの使用が限定的になる可能性があります。 その場合、宿泊施設や観光施設での対応が重要になってきます。 観光庁が作成した「自然災害発生時の訪日外国人旅行者への初動対応マニュアル策定ガイドライン」には宿泊施設や観光地が初動対応としてどのような行動を取る必要があるのかを指針として示していますが、大都市と地方都市、災害を経験した地域とそうではない地域では取組みに温度差がありそうです。
まとめ
海外から見て日本は地震をはじめとした災害が多い国、という印象になっていることを考えると、いざという時のケア体制をしっかりと確保することはインバウンドを誘致する上での前提条件でもあり、責任でもあります。 なにも起きていない時にこそ有事を想定した準備が求められています。