2017年の訪日外国人観光客は2,800万人を超え、東京や大阪、京都のようないわゆるゴールデンルートだけではなく、地方にも目が向けられるようになりましたが、2020年には東京オリンピック・パラリンピックを控え、さらなる増加が期待されています。
うれしい悲鳴が上がる反面、受け入れ側として様々な方面で準備や対策の必要性も同時に問われていますが、中でも通訳不足は深刻な問題として浮かびあがってきました。
特に難しい専門領域の通訳が不足
法廷通訳
訪日外国人観光客が増加することで同時に増加したのが事件や紛争です。その結果、被告人や証人など、立場は違っていても外国人の訴訟関係者が法廷に立つ場面が増えているのです。 ここで問題なのが被告人や証人が日本語がわからない場合です。その場合は国費で法廷通訳人が雇われるのですが、法廷通訳人不在では開廷できないため、重要度が高いのです。 2016年に法廷通訳が必要となる刑事事件で判決を受けた被告人の数は2624人(68カ国)と増加傾向にありますが、需要が大きい順にいうと中国語、ベトナム語、ポルトガル語、フィリピン(タガログ)語の需要が大きいのですが、中国語以外の言語は学習者が少ない希少言語のため、法廷通訳人の数が不足しています。 また、法廷通訳人の業務は収入が不安定な上に負担が大きく、2017年4月時点での名簿登録数は5年前から200人も減少した3,823人となっており、待遇の改善や制度の見直しを迫られています。
医療通訳
2017年に厚生労働省が実施した調査によると、外国人患者を受け入れる設備が整っていない自治体が98パーセント、外国人患者の受け入れに必要な人材が足りない自治体が99パーセントだということがわかりました。 特に重要度が高いのが医療通訳ですが、これまで国家資格や認証制度が存在せず、民間や各団体が独自に行ってきた医療通訳者の養成を全国的に統一する動きが始まっています。 医療が必要な外国人患者と意思疎通を図ることは一般の通訳と比較して高度な技術が必要とされるほか、医療用語への理解も要求されるため、一般的な通訳とは別の専門家としてニーズが高まっていますが、このようなスキルを持つ通訳者が不足しているのです。 その背景には高度なスキルが必要にもかかわらず、職業として認知されていないため十分な報酬も得られていないということが一因として挙げられます。
通訳案内士
通訳案内士法の改正によって従来の通訳案内士は「全国通訳案内士」と名称を変えることになりますが、10か国の言語を対象としているのにも関わらず、全体の67.8%が英語を対象とした全国通訳案内士となり、訪日外国人観光客のうち最も数が多い中国、台湾、香港等の中国語については12%しかいないという、バランスの悪い状態になっています。 英語以外の言語についてのガイドを増やしたいところですが、試験が年に1度しかなく、また難易度が高いということもあってそもそも通訳案内士の資格試験に合格することが難しいという点が課題として残されたままとなっています。
専門家への正しい評価と待遇が必要
インバウンド需要の加速に伴うガイド不足への対策として通訳案内士法の改正が行われましたが、すそ野の広がりによって専門家を目指すメリットが失われてしまうことは長い目で見た場合にマイナスになりかねないという懸念もあります。 法廷通訳や医療通訳のような不足がより深刻な仕事に対しての適切な評価と待遇の見直しが急務ではないでしょうか。