訪日外国人観光客は年々増加を続けていますが、受け入れ側の問題としてまず課題となったのが宿泊施設の不足です。そこで注目されたのが民泊ですが、2020年に訪日外国人観光客4000万人を目指す政府の成長戦略とも一致していることから、インバウンドの受け皿として更なる民泊事業者の参入を促す目的で民泊新法が2018年6月15日より施行されます。
低調な届け出
民泊新法(住宅宿泊事業法)の施行日を6月15日に控え、観光庁から2018年5月11日時点での届け出状況が明らかになりました。 大手民泊仲介サイトに登録されている部屋数は全国で6万件以上という中、全国の民泊事業者による届け出提出件数は合計で724件、そのうち受理済みは152件となっており、低調と言わざるをえない状況です。
民泊新法への届け出はなぜ少ない?
民泊事業の透明性の確保と拡大を目的として施行される民泊新法ですが、実際には思ったような届出とはなっていないようです。 では、民泊新法への届け出が進まない理由はどのようなものがあるのでしょうか?
①年180日の営業では採算が取れない
最も大きいと思われる理由は年間の営業日数の上限が180日に設定されていることだと推察されます。 民泊運営にかかるコストを踏まえた場合、年間180日しか営業できない、ということになると赤字になってしまい、ビジネスとして成立しないと判断した場合には賃貸契約など民泊以外の物件活用方法を検討する人も少なくないようです。
②届出に必要な書類が多く、手続きが面倒
2つ目の理由は手続きの煩雑さです。 届出に必要な書類は20種類以上ありますが、それ以外にも建物の建築図面、消防法令に基づいて追加設備や現地確認の必要もある等、複雑な上に追加で費用が必要になるため、届出を行うためのハードルは低くありません。このような手続きの煩雑さは民泊施設オーナーが届出をためらう理由になっているでしょう。
③近隣とのトラブルが原因
届出が進まない原因として3つ目に挙げられるのは、騒音やゴミ処理等の近隣とのトラブルを避けたいという考えのようです。 分譲マンションの8割以上が管理組合で民泊を禁止する方針を掲げており、これもまた届出を阻む要因になっています。 民泊による住民とのトラブルは当初から問題視されており、民泊新法を受けて地方自治体の多くが従来からの住民の保護を目的としたいわゆる「上乗せ条例」を制定したことで、更に民泊事業を取り巻く環境は厳しさを増しています。
懸念される宿泊施設の不足
元々、民泊新法は無許可で民泊営業を行う事業者や個人が増加したことでトラブルも増加していたという背景があり、事業者を届出制とすることで違法民泊施設をなくし、民泊施設を利用するゲストに対しても安全で信頼できる宿泊体験を提供するという趣旨でスタートしています。 訪日外国人観光客の急増によって宿泊施設の不足が浮き彫りになる中、宿泊施設として民泊を活用していくことでさらなるインバウンドの活性化を見込みたい政府としては意図せざる方向へと事態が向かっています。 大多数の民泊事業者が届出をしていない状況では違法民泊施設が存続し続けることも懸念されています。 当初の予定通り届出を増やし、民泊市場の透明性を保つためにはどのような対応が必要になるのか、政府の動きが注目されます。