増加を続けるインバウンド人口ですが、対応が必要とされる分野の一つが観光ガイドです。
2018年1月4日に施行された通訳案内士法は、これまで通訳案内士の資格がなければボランティアでしか提供できなかった観光ガイドを無資格者でも有償で行うことができるというものです。
そこで同法の施行直前の2017年12月から2018年1月にかけて行われた観光ボランティアガイドへの実態調査からガイドの現在を見ていきましょう。
東京のガイド数は急増
全国の観光ガイド組織の数は1693組織で、2015年に行われた前回調査とほぼ同数ですが、ガイドの数は4万6159人、前回比で5%と微増しています。 特に東京については2020年の東京オリンピックの影響を受け、2.7倍と急増していることがわかります。 また、ガイドの平均年齢は65.1歳と高齢者が多い傾向がうかがえます。
28.8%の組織がガイド料無料
ガイド料金の設定に目を向けてみると28.8%の組織が無料でガイドを実施していますが、実費のみ徴収している組織が29.0%となっている他、有料と回答した組織29.0%についてもガイド1人あたり1000円~3000円未満という回答が半数を占めています。
外国語での案内が可能な組織は2割強
インバウンド対応に欠かせないのが外国語でのガイドですが、1693組織のうち外国語でのガイドが可能なのは約2割となる312組織でした。 対応可能言語の内訳は英語の89.1%が最も多く、中国語の26.6%、韓国語の15.7%がそれに続く形です。 ガイドの人数ベースで見た場合、外国語対応が可能なガイドは3674人、全体の8%に留まり、訪日外国人観光客への対応に不安が残る結果のように思えます。
法改正についての低い認知度
調査を通して観光ボランティアガイド組織のインバウンド対応は質、量ともに物足りないと言わざるを得ませんが、法改正を受けてこれまで無償で行う必要があったガイドを有償で行い、得た報酬を元に外国語の堪能な人材を雇用するということが可能になりました。 しかし、法改正によって無資格者による有償のガイドサービス提供が可能になったということを知らないという組織が約8割にのぼるという結果が出ました。 既に観光ガイドとして活動が行われている組織が法改正を受けて営利団体として報酬を得つつ、多言語対応力を強化してインバウンド需要の受け皿として機能する、という状況にはまず通訳案内士法改正についての認知度を上げるところから始める必要がありそうです。
法改正を商機ととらえるマッチングサービス
このような中、株式会社エイチ・アイ・エスがスタートさせた「Travee」に代表される地元ガイドと訪日外国人観光客のマッチングサービスが複数立ち上がり、新たなビジネスチャンスと捉えて積極的なプロモーション活動を行い、それぞれのサービスを訴求していますが、これによってこれまで語学力があってもガイドをするとしたら無償になってしまっていた外国語話者と地元に精通したガイドを受けたい訪日外国人双方のニーズを満たすことが可能になり、通訳案内士法改正による効果は一定以上は得られそう、という見方ができそうです。
質の担保とプロとしてやりたいと思わせる報酬体系が必要
弊社でも過去の記事で取り上げている通り、通訳案内士法改正によって誰でも有償で通訳をすることができるようになったことで質の担保が難しくなる、という点についてはまだ明確な対策が取られていませんが、日本が観光立国を目指す以上、日本を訪れた外国人にまた日本に来たい、と思わせてリピーター化してもらうためにはプロとしての高い技術を備えた通訳案内士が必要になりますし、英語以外の言語対応の充実についても急務と言える状況です。 そのためには高い技術、高い能力を備えるプロの通訳案内士にはしかるべき報酬を支払い、無資格者とは一線を画すことで質を担保していくような動きが必要となってくるのではないでしょうか。